泰山堂のオーナーである藤井けい子さんは、長年秋田県のグリーンツーリズムを引っ張ってきた存在だ。泰山堂の開業前からけい子さんは「子どもたちに楽しんでいってほしい」との思いで中学生の修学旅行の受け入れ先として農家体験、ホームステイ等をしており、その後再び訪ねてくる人も多かった。けい子さんは再び訪ねてきてくれる人たちのことはありがたく感じていたが、自宅でもてなすことには困難を感じていた。そこで大工である夫の直市さんが自宅の隣に離れを作り、1996年に秋田県の農家民宿第一号として泰山堂は開業した。
秋田県の農家民宿第1号の泰山堂。
終始穏やかな表情で、楽しそうに話すけい子さん。
泰山堂を自ら設計し、建てた直市さん。
離れは二階建てになっており、プライベート利用することができる。一番の特徴は一階の囲炉裏であり、もちろん直市さんが作ったものである。囲炉裏のある家は現在秋田の農家民宿の中でも少なくなっており、貴重である。格子状の火棚にはお客さんからいただいたというかわいい小物がたくさんついている。囲炉裏で暖をとったり、きりたんぽを食べたりでき、かけがえのない思い出になること間違いなしである。天井には大きな木の柱があり、迫力満点である。二階には寝室があり、布団だけでなく、ベッドも一台ある。寝室にも窓や壁などにかわいい小物が置いてある。二階にはこれまでの宿泊客が置いていったという本もあるので、ゆったりとこれまでの宿泊客のことを考えたりしながら読書するのも良いだろう。二階のベランダからは一面に広がる田んぼと、山の美しい景色を見ることができる。天気がよければ鳥海山を見ることもできるそうだ。このように泰山堂は自然が豊かなところにあり、私が訪れた時には庭に雉が歩いていた。
泰山堂を建てるとき、必ず設置すると決めていた囲炉裏。現在も大活躍。
囲炉裏の火棚から吊してある可愛い小物。ほとんどがお客さんからの贈り物。
けい子さんは自宅の周辺で野菜や山菜、果物を50種類以上育てており、泰山堂ではその時期の旬の野菜を使った料理を食べることができる。また、けい子さんは泰山堂の近くを走る秋田内陸線の観光列車「ごっつお玉手箱列車」で数種類のお漬物を提供している。いぶりがっこをはじめとして、キムチ、大根の柿漬け、ブドウ漬け、菊芋のお漬物など様々な種類のお漬物を作っている。カラフルなお漬物をはじめとした、けい子さんの手作りのおいしい料理を食べてみてはいかがだろうか。
けい子さんが振る舞ってくれたおやつ。全て柿をベースにしているのが驚きだ。
けい子さんは農家民宿にかける思いが人一倍強く、東北や、遠くは九州の他の農家民宿に視察に行ったこともあるそうだ。けい子さんによるとこれまで農家民宿をしていて大変だと思ったことはないそうで、今後も元気に農家民宿を続けていくため、健康には気を付けているという。日本の多くの観光地は近年海外からも観光客が増え、ゆったりできる場所は少なくなっているので、泰山堂で散歩したりしてゆっくりしてほしいともおっしゃっていた。テレビもないので、お昼寝をしたり、夕食を食べ、お話をしたりして、翌日も昼までゆっくり過ごすということも可能である。畑で野菜の収穫体験をしたり、一緒にきりたんぽなどの郷土料理を作ったりすることもできる。30回以上泰山堂を訪れている人もいるなど、リピーターも多く、近くの川で釣りやドライブを楽しんでいるそうだ。また、花火大会やマラソン大会のたびに毎年宿泊するお客さんもいらっしゃる。
残念ながら写真に収められなかったが、庭に雉が散歩しに来ていた。
「我が家で取れた野菜をご馳走し、誰かの為に手入れしておく。そんな繰り返しがとても嬉しい」と話すけい子さん。緑に囲まれた静かな空間にある、小さな家「泰山堂」で、たまには忙しい毎日から抜け出し、ゆったりと休みを過ごしてみてはいかがだろうか。
コラム:岡田真一(国際教養大学)
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