しんしんと雪が降り積もる仙北市桧木内の山の中で、薪ストーブの煙が煙突から立ち上る農家の宿、星雪館(せいせつかん)。その横には季節に応じた多種多様な野菜を栽培するためのビニールハウスがいくつか並んでいる。私が訪ねたときは、ちょうどほうれん草が育っていた。周りにはあまり建物がなく、家からふと視線を逸らすと、森が見える。まさに秋田の広大な自然の中にある一軒家である。
星雪館は一棟貸し切りタイプの贅沢な農家民宿だ
星雪館のオーナーである門脇富士美さんは中国へ留学に行った際、自分が地元について何も知らないことを痛感し、まずは地元について知ろうという思いから農家だった両親を手伝い始めた。その後門脇さんは農家に対するイメージ向上のために、1998年から農家民宿、星雪館を両親とオープンした。星雪館には日本人だけでなく、外国からのお客さんも多く訪れるが、そこに言語の壁はなく、中国語や英語を駆使してコミュニケーションをとっているそうだ。そんな門脇さんは物腰の柔らかい人で、常に笑顔が絶えないので、こちらも気兼ねなく話すことができる。しかし積極的な一面も持っており、向上心の高い人でもある。そんな門脇さんの性格に惹かれてか、星雪館を何回も利用するお客さんも多い。一度訪れたらあなたもきっとその内の一人になるだろう。
門脇富士美さんはいつも笑顔が絶えない
星雪館にあるビジターノート。たくさんの国の方が書き込んでいる。
様々な国のお土産が並ぶ
壁に掛かっている物も独特だ。
星雪館では母屋の隣に建つ別棟の宿泊施設で、お客様に一棟貸ししている。階段を上がってすぐのドアには「おかえりなさい」と優しい文字で書いてある大きなタペストリーがつるされていた。二階には、リビングと和室が二部屋、トイレ、キッチン、お風呂がついている。キッチンは自由に利用可能だ。リビングには薪ストーブを囲めるよう特別に作った、大きな「コ」の字型のテーブルが置かれているので、薪ストーブの火を囲んでみんなで談笑することができる。今回、薪ストーブを見るのも使うのも私にとっては初めての経験であったが、実家で使っている電気ストーブに比べ、部屋の隅から隅まで温まることにとても驚いた。オーナーの門脇さんは、薪ストーブの上で手作りのおやきを焼いてくれた。食べごろになるまで何度かひっくりかえす姿には、田舎ならではの懐かしさを感じた。和室に入ると色とりどりのはんてんがあり、自由に使うことができる。また、和室の大きな窓からは雪で白くなった山や畑が見え、美しい雪景色と、色鮮やかなはんてんはいかにも秋田の冬というイメージにピッタリである。
キッチンで自炊も楽しいが、提供される食事プランも絶品だ。
色鮮やかなはんてん
一日一組限定のため広々と使える。
そんな雰囲気あふれる星雪館は、仕事に追われる社会人や家族連れにとても適している。門脇さんはお客さんの雰囲気に合わせて適度な距離感を保ってくれるので、気兼ねなく滞在できる。テレビも置いておらず、家族や友人との会話を楽しんだり、きれいな風景を見たり、温泉に行ったりと、ゆったりとした非日常の時間を過ごせるのは星雪館の魅力だろう。さらに近隣の民家とも距離があるため、大きな音を立てて周りを気にする必要もない。夜に宴会を開くこともでき、子ども達が大きな音を立てても影響はない。加えて、要望があれば星雪館ならではの体験に触れることも可能だ。お餅づくりやきりたんぽづくり、薪割りなどが体験の一部である。なかでも、材料を厚手の袋に入れて足で踏むみそづくりや、笹にのったお餅に飾りつけをする「ささっぱ餅づくり」は子どもに大人気だという。野菜の収穫を体験することもでき、例えば冬はほうれん草、夏は枝豆の収穫などがある。収穫したとれたて野菜がその日の夕食に出てくるのも嬉しい。子どもの食育にも一役買ってくれることだろう。大人も子どもも、テレビのない自然に囲まれた静かな空間で、普段はできない体験で家族や友達とのコミュニケーションを深めてみてはいかがだろうか。
コラム:稲川拓実、長崎青空(国際教養大学)
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自家製いぶりがっこもごちそうしていただいた。
色とりどりの干し餅もこんなにたくさん。
門脇さん(中央)、国際教養大学インターン生(稲川・左、長崎・右)