「仕事は楽しく。」をモットーに、学生から他国の方々まで幅広く受け入れているのは秋田県仙北市の農家民宿、「荷葉の郷 喜四郎」である。喜四郎は平成22年に開業した。オーナーの千田さんは、それまでは農協で働いていたが喜四郎の開業を機に、今ではお米や野菜を育てながら、出身国や年齢の違う様々な宿泊客に向けておもてなしをしている。長年修学旅行生の受け入れも行ってきた千田薫さん、秋子さん夫妻は今でも、宿を営むにあたって、宿泊客をもてなすだけでなく自らが楽しむことを忘れない。居間にあったテレビ台には、修学旅行生からプレゼントされた額縁が飾られていた。喜四郎でできる田植えなどの体験は生徒にとって必ずしも簡単にできるというものではないが、それでも生徒が楽しめるのは、千田さん夫妻の日々の工夫があってこそである。夏にはバーベキューをしていたこともあったそうだ。千田さん夫妻が経営する喜四郎は日本一深い湖、田沢湖近くに位置しているので自転車を持ってくる人は、それを使って田沢湖を見に行くこともあるという。夏には家の前の水路でスイカを冷やすなどと非常に風情がある。また民宿から歩いて一分のところにある川では魚が泳いでいるため、その魚をとって食べることもできる。まるで祖父母の家に帰省したかのような気持ちになれる、そんな宿である。
笑顔が素敵な秋子さん。餅菓子作りを体験させてもらった。
穏やかな表情で見守る薫さん。とても物腰の柔らかい人だ。
喜四郎の屋内とは打って変わって、外は大雪。冬は常にこの景色だ。
喜四郎では季節に応じた体験が存在し、春は山菜取りや田植え、夏は野菜の収穫、秋はお米の収穫、冬は秋田の郷土菓子である「干し餅」作りができる。千田さん夫妻が育てる野菜はとても種類豊富で、夏にはナスやトマト、キュウリなどが植えてある。ちなみに今年の夏はピーナッツに挑戦してみた千田さんであった。喜四郎では、そのような様々な野菜の種まきや収穫を体験することができる。宿の前の道を少し下ったところに田んぼもあるので、田植えや、できたお米の収穫の体験もできる。今回私は漬物と完成した干し餅を食べさせていただいたあと、乾燥する前の四角いお餅をひもにつるす作業を体験させていただいた。漬物は、カブ漬け、麹漬け、しょうゆ漬けと種類豊富にあり、すべて千田さんの手作りだった。実際に干し餅吊るしを体験してみると想像とは異なり、一見餅を一列に編むだけに見える作業がとても細かくて難しかった。特に編み終わった後の最終段階にある、ひもをねじる作業は長年の練習が必要である。うまくできない私の横で、正確に迅速にひもを編んでねじる千田さんに感嘆した。また喜四郎では、季節に関わらず秋田名物「きりたんぽ」が食べられる。千田さんは宿泊客がくると最初の日の晩に「きりたんぽ」をふるまうという。
干し餅を編む作業。思いの外難しかった。
完成したのがこちら。
お土産もいただいた。
喜四郎を一言で表すなら『家族』である。もちろん、周りの自然やその風景が醸し出す懐かしさも味の一つであるが、最大の特徴は千田さん夫妻のお人柄だ。千田さん夫妻は宿泊客との会話を大切にする。修学旅行生だけでなく、海外から秋田への宿泊客も来るが、たとえ日本語が通用しない場面でもあったとしても、「新鮮で面白い。」と語る二人の姿に言葉の壁は感じられない。ちなみに、日本語が通じない場面では、スマホの翻訳機を使って相手との意思の疎通を図るという。千田さん夫妻は、そんな宿泊客たちが最後に「ありがとうございました。」と言って帰っていくのがとても嬉しいと語る。
後の段落で触れるが、薫さんは戦闘機プラモデルマニアである。
一部屋全てプラモデルで埋め尽くされている。
さらに、千田さん夫妻は今でも、腕を組んで写真を撮るほど夫婦の仲がよく、それぞれが趣味や特技を嗜む。旦那さんは、戦闘機のプラモデル作りや撮り鉄などと非常に多趣味。喜四郎に行ってみると、玄関に旦那さんが作った戦闘機や迷彩柄の帽子が並んでいたり、部屋一つがプラモデルで埋まっていたりとかなり熱を注いでいるのが分かる。手作りのプラモデルはどれも一部一部が丁寧に作られていて、まさに職人技であった。また、鉄道や汽車を撮影するためにわざわざ岩手に遠出するほどアクティブでもある。一年に一度しか走らない汽車を見に行くこともあるという。一方で、奥さんはお餅づくりの名人であり、毎年秋田の名物「干し餅」を大量に作ってはお隣さんにおすそ分けしているそうだ。何もつけずともほのかに甘い干し餅は、どことなく懐かしいような味がする。また、仙北市田沢湖地区には「けいらん」という白いお餅に飾りつけをする笹餅がある。喜四郎では、干し餅に加えてけいらんやお漬物も手作りする。お漬物は種類豊富で、カブ漬けやしょうゆ漬け、麹漬けなど幅広い。このようなアクティブなお父さんと器用で優しいお母さんの元にぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。週末のちょっとした休みに羽を伸ばし「ただいま」といえるようなもう一つの家族にきっと出会えるだろう。
コラム:長崎青空 (国際教養大学)
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