仙北市角館の武家屋敷や桜並木から徒歩約15分。能美忠堯さんと紀子さんが営む農家民宿「西の家」はコンビニやスーパーも近くにあり、好アクセスだ。歴史を感じる旅をしてみたい方にとって西の家は特におすすめだ。というのも、西の家は仙北市で唯一、茅葺屋根の家を宿として提供している。明治16年から18年の2年間にわたって建てられ、現在は築135年以上である。その家の大きさは元々家族8人で暮らしていたというほど。武家屋敷通りの一部かと見紛うほど立派で、文化財を見学しているようであった。私たちは2月に訪れたため雪がたくさん積もっていたのだが、分厚い雪を抱えた茅葺屋根は力強くて格好良かった。家は釘などを一切使わず、木同士を組み合わせてできており、とても丈夫で地震や雪にも強い。茅葺屋根のおかげで、雨が降っても気付かないほど静かだという。庭には樹齢200年以上の巨大なマツとモミの木がそびえ立ち、家をより一層趣深いものにしていた。
深い雪もしっかり支えてくれる
家につくと、紀子さんが家の特徴を分かりやすく教えてくれながら部屋まで案内してくれる。家に入るとすぐに現れるのは、元々馬小屋だったという広いスペースだ。そこでは角館祭りの曳山の模型が迎えてくれる。宿泊のできる部屋は奥に2部屋あり、最大2組泊まることができる。そのため、偶然一緒になった2組が意気投合して仲良くなることもあるそうだ。そんな部屋を仕切る襖には1面に角館を代表するスポットである桧木内川の桜並木が描かれている。他にも、西の家の外観が描かれた襖もあり、角館の街並みと立派な茅葺屋根を部屋の中でも味わうことができる。驚くことにこの襖絵は忠堯さんの父親が描いたそうだ。部屋の中にはこれまた忠堯さんの父親が集めた骨董品の数々が並んでおり、見どころ満載である。このように西の家は外観だけでなく、家の中まで文化財や博物館のようなところが印象的であった。加えて、家の中から見る茅葺屋根も屋根の分厚さがよく分かり、ひと味違った景色が楽しめておすすめだ。また、お風呂は豊かな木の香りとぬくもりを感じられる檜風呂。庭の池にはコイが泳いでおり、ゆったりとした時間を過ごすことができる。旅の疲れを癒すにはぴったりだ。
馬小屋のあった場所には角館のポスターなどが飾ってある
9月に行われる角館の祭りに使われる曳山の模型
角館の町並みと河川敷の桜並木が描かれた襖
自慢の檜風呂
西の家では今では珍しい囲炉裏を用いた味噌たんぽづくりを始めとした、様々な体験ができる。紀子さんは約30種類の野菜を栽培しているため、大根や芋などの収穫体験、秋には栗拾いがおすすめである。収穫後すぐに茹でて食べる芋は格別だそうだ。共有リビングの横にはキッチンも設置されているため自分で調理をすることもできるが、夕飯には紀子さんに採れたての新鮮野菜を使ったおいしい料理をふるまってもらおう。囲炉裏で炙った味噌たんぽと紀子さんの作るおいしい料理を思う存分堪能してみてはいかがだろうか。
日本人にも外国人にも囲炉裏を使って作る食事は大人気
外国の宿泊客にもわかりやすいように英語表記も欠かさない
西の家では角館を感じることができる物がたくさん。武家屋敷の描かれた皿もその一つ
紀子さんは人との出会いを大事にしており、農家民宿の経営を楽しんでいる。常に笑顔で丁寧な口調が印象的で、興味関心を惹きつけることをたくさん話してくれるので、紀子さんとの会話でネタに困ることはまずないだろう。宿泊客と話して見聞を広めるのが好きということなので、積極的に話しかけ、地元のことや旅のことを話すことをお勧めする。きっとあなたの旅の忘れられない思い出の一つになることだろう。
農家民宿の経営が趣味という能美さん。人と関わるのが一番楽しいそうだ。
また、紀子さんの言葉からは、茅葺屋根の家をとても大切にしていることがよく伝わってきた。日本の昔ながらの風景の一部であった茅葺屋根の家。長年守ってきた家を子どもたちや観光客に見てもらいたいとの思いで農家民宿を経営しているという。とはいえ、茅葺屋根を守るのは簡単なことではない。茅葺屋根を維持するためには、定期的に葺き替えが必要である。昔は町の人同士で助け合いながら茅葺屋根の葺き替えをしていたが、現在は人口減少と高齢化が進んでおり、職人に頼らざるをえない状況である。その職人も減ってきており、葺き替えの費用はかなり高額である。このような大変な状況の中で能美さん夫婦は家を維持してきたという努力には頭が下がる思いだ。初めて茅葺屋根に触れる人も、懐かしさを覚える人も、きっと心に残る特別な時間を与えてくれるに違いない。西の家の茅葺屋根には能美さん夫婦の熱い思いが詰まっていた。
コラム:岡田真一、稲川拓実(国際教養大学)
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